
ちなみに「ダブリン」はアイルランドの東側にある街です。

once ダブリンの街角で(あらすじ ネタバレ注意)
父親の修理屋を手伝いながら、街角でボロボロのギターを弾く男がいた。
彼は元々ロンドンに住んでいたが、母の死をきっかけに地元に戻ってきたのだった。
ある時、男はいつものようにギターを弾いていた。
昼はメジャーな曲を弾いて日銭を稼いでいたが、夜はオリジナル曲を歌っていた。
オリジナル曲を聴いてくれる人はほとんどいなかったが、ある時、若い女性に声をかけられる。
女の子は、男が掃除機の修理の仕事をしていると知って喜ぶ。家に壊れた掃除機があったからだ。
次の日、女の子は掃除機を持って男の前に現れる。
女の子は貧しい暮らしをしていて、唯一の楽しみは楽器店でピアノを弾かせてもらう事だった。
女の子は男に楽器店でピアノを披露した後、男のオリジナル曲を聞かせてくれとせがむ。
男は女の子とセッションする事を提案し、彼女は同意する。
初めてセッションをした割には、男と女の子の息はぴったり合っていた。
この事をきっかけに、男と女の子は少しずつ心の距離が縮まって行く。
ある時、男は女の子の家に誘われる。男は期待して彼女の家に行くが、そこには彼女の母と小さな娘がいたのだった。
女の子はシングルマザーで、夫はチェコにいるという。
男は少しがっかりするものの、女の子のことを少しづつ受け入れて行く。
男は女の子に惹かれつつも、ロンドンに戻って別れた彼女を取り戻そうとする。
女の子の音楽の才能に魅力を感じていた男は、ロンドンへと旅立つ前にオリジナル曲をレコーディングしようと試みる。
即席のバンドのメンバーをなんとか集め、スタジオも確保できた男だったが、スタジオのエンジニアは素人集団を見下しているような素振りだった。
しかし、彼らの曲が始まると、エンジニアは彼らの曲に惚れ込む。貧乏な彼らは、スタジオを一日しか借りられず、徹夜でレコーディングに臨む。
なんとかレコーディングを終えた男と女の子は、少しの休憩時間にピアノを弾こうとする。
女の子が作ったオリジナル曲を歌うように進める男だったが、歌っている途中に女の子は泣き崩れてしまう。
女の子はチェコにいる夫が忘れられない様子だった。
男は女の子をロンドンに誘うが、彼女は首を縦に振らなかった。
レコーディングが終わってしまうと、彼女は家に帰って行った。
その後、男と女の子は再び会うことはなく、男はロンドンへ旅立つ。
男はダブリンを去る前に楽器店に足を運び、女の子にピアノを送るのだった。
once ダブリンの街角で (レビュー 感想)
映画の雰囲気・コンセプト
現役のシンガーソングライター二人が主人公というだけあって、映画のほとんどが二人の歌声で構成されています。
しかし、あまり激しい曲調ではなく、ゆったりとした心地よい風のようなメロディーが映画全体を包んでいます。
映画は人に感情を伝えたりする媒体の1つですが、この映画は「言葉」で感情を無理に表現することはないので、とても繊細な印象を受けます。
主人公の男と多分、10代後半くらいの女の子は明らかに惹かれあって行くのですが、最後はうまく行きません。
微妙な感情の揺れを、二人の演技や表情で表現しています。
低予算で作られた良質な映画
この映画は、相当な低予算で作られたようで、カメラワークは大学生の自主制作映画のようにブレまくっています。
本来なら、そうしたカメラワークは「映画」という世界から「現実」の世界へと観客を引き戻してしまい、興ざめさせてしまうものですが、この映画の場合、うまい具合にバランスが保たれています。
ドキュメンタリーに近ような映画に仕上がっていると表現したら良いでしょうか。
個人的な見所
個人的な見所は、「生活感」です。
CDプレーヤーも持っていない貧しい家庭をなんとかやりくりしている彼女ですが、生活を楽しむ工夫を凝らしている様子が描写されています。
例えば、楽器店の店主と仲良くなって、昼の間、1時間だけピアノを使わせてもらっています。
また、女の子の隣の家に住む三人組の男は、女の子の家でテレビを見させてもらっています。(描写はないんですが、お礼に金銭等の何かを提供する事で、この関係が成り立っているものと思われます。)
こういう「貧しいけどお金を使わないで楽しむ」っていう描写が個人的には好きなんですよね。
音楽とかも、本来はそういうところから来ている文化だと思いますし、限られた時間と限られた予算で頭を使ってなんとかやりくりするからこそ、出来上がったものがすごく輝いて見えるということを教えてくれる映画でした。
冬の朝の手つかずの新鮮な空気のような、透き通った映画です。心が洗われるので、疲れた時にオススメです!