
戦争映画の良さは、私の考えだと、日常の嫌な事が些細な事に思えるくらい、ハードな描写がなされているところにある。
要は、自分より大変な人をみて、今の生活の有り難みを噛み締めたいが為に、私は戦争映画を観るのだ。
劇中、任務にない戦闘を指示された部下は、ミラー中尉(トム・ハンクス)に気が進まないと反対する。
ミラー中尉は、気の向く任務などどこにあると一蹴し、戦闘の準備を始める。
この辺りを見ていて、いつも仕事がつまらないと思っている自分が、叱咤されたような気分になる。
任務や命令がいかなるものであっても、ベストを尽くすという姿勢はかっこいいものだ。(私の場合は効率とか見返りを常に考えてしまって、そうした事は全くできないのだが)
あの映画が、どのくらい戦争のリアルを描写しているのかはよく分からないが、よくあんな銃弾の雨の中を走って進めるなーと驚く。
一番気弱に描かれているアパムでさえも、ビビりながらなんとか行動している。
自分は絶対無理だなーと、思ってしまう。情けない事だが、腰を抜かしている内に、撃たれて死んでしまうのではないだろうか。
あらすじ
第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦
アメリカ軍の軍人達が、船で上陸するシーンから始まり、まもなく、上陸するかという時、浜辺で待ち構えているドイツ兵の機関銃掃射をうけてしまう。
多くの兵士が、銃を構える間もなく死んでいく中、ミラー中尉が率いる部隊は、なんとか機関銃の当たらない死角にたどり着いた。ミラー中尉の指揮のもと、部隊は突破口を見出し、なんとか上陸作戦を成功させた。
上陸後のミラー中尉を待っていたのは、兄弟を失ったライアン二等兵を見つけ出し、帰国させるという任務だった。
映画の魅力
この映画の魅力は、とにかくリアルな(本物を見たわけではないので、リアルと思わせる)描写だ。人間は当然、撃たれれば死ぬし、ドラマのような感動的な死に方をするわけでもない。おまけに、死は唐突にやって来て、どうしようもないくらいにあっけなく、味方の兵士を殺してしまう。彼らも当然故郷があって、親や兄弟がいて、子供もいるかもしれない。でも、それらはほんの一瞬にして無くなってしまうのだ。
また、セリフがなく、兵士たちが顔を突き合わせてるだけのシーンや、銃声が鳴り響く中、土の上に伏せているだけのシーンも多いのだが、そういう時の、兵士一人一人の仕草や息遣いが物語に深みを与えている。ヘルメットを被る時の諦めにも似た気持ちや、物陰に隠れている時の安心感、タバコを吸いながら感じている漠然とした不安が、画面を通じて伝わってくる。
基本的には、戦場になれてしまい、やさぐれた軍人で部隊は構成されているのだが、アパムは例外だ。アパムは、フランス語やドイツ語が話せる貴重な兵士として、ライアン二等兵救出作戦に加えられる。
この青年は、実戦経験が無く、気弱で、まだ人間らしい心は失われていない。捕虜を痛めつけるのを躊躇ったり、銃殺はやめてほしいとミラー中尉に懇願する。
彼の存在が、あまりにも人を殺す事に躊躇がない他の兵士と対比されており、画面のこちら側の人間に近い存在として、現実感をもたらしてくれる。
あと、トム・ハンクスは渋くてかっこよかった。
全体として
リアル度 ☆☆☆☆☆
感動度 ☆☆☆
オススメ度 ☆☆☆☆
この映画は過去に何度も観ているのだけれど、サラリーマンになってから観たのは今回が初めてで、なんだかサラリーマンに通づるところもあるなあと感じた。(もちろん、軍人の方が何百倍もハードで比べるのもおこがましいのだが、あくまで一つの映画として見たときの話)
理不尽な要求を飲み込む表情や心境は、似ていると思うし、ミラー中尉が「いったい俺はここで何をしてるんだ?」と呆然となる時の気持ちなんかは、火曜日の夜10時過ぎに会社のトイレで一人で顔を洗っている時に感じるような気持ちと似ているんではないだろうか。
鏡の中の自分と目を合わせると、いったい俺は、何故こんな必死にこんな事をやっているんだっけ?と向こう側の自分が問いかけてくる。答えは「知らねえよ」だ。自分とは程遠い、権力構造の上の方で決まった決定で、我々の運命は勝手に決められてしまったんだ。
それはさておき、まだ観ていない人で、戦争モノに苦手意識がなければ、一回は見た方がいい。
年齢を重ねたライアン二等兵の最後の言葉に、明日から頑張る勇気を貰えるだろう。